走島のちりめん漁を支えたお母さんへ~感謝を込めて | ひさみん日和

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走島のちりめん漁を支えたお母さんへ~感謝を込めて

けんちゃん

今日はちょっと昔の話になります。

27年前の6月、それまで韓国で暮らしていた私は

実家のある広島で長女を出産しました。

その出産に立ち会うために、夫であるけんちゃんは

一時的に日本にやって来たのですが・・・

 

「こんな赤ん坊を連れて、異国(韓国)で

子育てをするのはかわいそうだ。」

そう言って、自ら日本にとどまる決意をしてくれたのでした。

これはその頃の写真

けんちゃんわかい!!

そして・・・

けんちゃんほそい!!

 

日本語がほとんど話せない夫が働ける場所も無く、

困っていたところ

当時私の姉の嫁ぎ先、福山市の走島の義兄が

「それならうちで働くか。」と言ってくれたのでした。

 

走島は鞆の浦の沖合に浮かぶ、ちりめん漁が盛んな島で、

当時は相当な漁獲量を誇る漁師町でした。

走島うちから見た走島

シーサイドホテルがちょっと・・・ですが

鞆港からフェリーで約25分かかります。

 

私たちは姉夫婦を頼りに、

まだ生後1ヶ月だった長女を連れて走島へ渡り、

住み込みで働かせてもらいました。

ちょうど姉も二人目を出産したばかりで

双子のように良くしてもらいました。

娘

姉の嫁いだ先には、義兄の他、お父さんとお母さん、

そして叔母さんも一緒に住んでいて、漁の時期は家族総出です。

義兄は父親の後を継いだ若き親方(網元)で

親戚や近所のたくさんの人を使っていました。

男衆は船へ、女たちと若者は《いりや》と呼ばれる加工場へ

水揚げされたちりめんを生きているうちにすばやく釜で茹で、

打ち上げてすのこに広げ、乾燥機へ。

乾燥が終わると当時は手作業で選りだし作業、箱詰め出荷。

私は主に家のことを手伝っていたので、

加工場へは数回しか行ったことはなかったですが、

広島の街で育った私にとって、それはもう信じられないほど

すさまじく戦場のような世界でした。

 

そんな中、夫は言葉がわからなくても一生懸命に働きました。

作業は最盛期には約18時間に及ぶときもあり、

その間、椅子に座るのは食べるときだけ。

しかも、女も男もゆっくり食べる人はいなくて

作業の合間、5分以内でお腹の中に流し込むような感じ。

まかないの食事は、主に義兄のお母さんが作っておられました。

ちりめんにまざって網にかかった、太刀魚やマナガツオ、

鯖などを煮付けにしたり、焼いたり刺身にしたり。

義兄のお母さんは140㎝もないとても小柄な方で、

隣町から漁師に嫁ぎ、小さい身体で姑、小姑が沢山いる中

まるで昭和のおしんのような方でした。

昔は子どもを背負って加工場で働いていたそうです。

いつも愚痴ひとつこぼさず、加工場でも家の中でも

ずっと動き続けておられました。

日本語もわからない夫をけなしたり邪険にすることもなく

いつも気遣い、けんちゃんありがとう。と声を掛けて下さいました。

 

これはそのころの写真

けんちゃん

夏の最盛期が終わると、親方である義兄は

全員を旅行に連れて行って労をねぎらうのでした。

いりや

 

お母さんは義兄が市議になり、漁を引退するまで、

ずっと支えて来られました。

年老いて病に倒れ、福山の自宅で介護されながら、

生き抜いてこられた小さな身体は

先日、子どもたち、孫たちに見守られながら

90歳というその生涯を閉じられました。

昨日、葬儀に参列し、夫は手紙を書きました。

そして感謝の思いでそっとお棺に入れていました。

 

周りには当時、一緒に働いた兄弟親戚、誰もが歳をとり、杖をつき

「いつもまで変わらず歳をとらないのはけんちゃんだけだ。」

と口々に笑っておられました。

写真を見ると確かに変化してるけど(笑)

 

ここに福山の地場産業、走島のちりめん漁を支えた人たちがいます。

今、当時の苦労を若い人たちにしろと言っても

誰一人として辛抱できる人はいないでしょう。

この年老いた人たちが、神仏を敬い、自然を恐れ、海に感謝し

走島を支えてきた人たちなのです。

そして、夫が今もこのちりめんいりこの

仕事をしている原点がこの時代にあります。

 

昨日葬儀に参列して、

漁師の苦労を思いながら、感謝の気持ちを忘れずに

これからも、美味しいちりめんいりこを売っていこうと

心に誓った一日でした。

 

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けんちゃんのいりこ屋店長・ひさみん(久光智子)
けんちゃんのいりこ屋店長・ひさみん(久光智子)

鞆の浦でいりこ屋を営んでいます。趣味は描く、綴る、歌う。特技は有り合わせで思い付き料理を作ること。
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